日々の雑感帖。小説は25pmにて公開しています。
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 もくもくと煙をはきだすことに生きがいを感じている煙突、

そいつをいくつもくっつけたいかめしい工場がいばって群れている。

そのすきまにうずもれるようにしてなんの変哲もないアパートが建っていた。

ただ、一室のドアと壁だけはどす黒い色をしている。

黒以外の色はひとつも見あたらない。まるで漆黒のペンキを

たくさん垂らしたかのよう、窓からもれでる光もまた同じように黒かった。



「黒は染まらない。それゆえ『よせよ』と言うものはいないし、

上塗りするものもいない。広がるいっぽうだ」

 そう吐く男のいきは、真っ黒で、暗雲のように室内にひろがっていった。

当然のように体も服も黒々としている。

かろうじて木目を残していたテーブルのはしへ手をのばすと、

触れるまえから色が変わっていった。そうした黒一色の閉塞した空間で、

ただひとつ免れていたものが男のこころだった。それだけがよりどころであり、

また唯一のものとして誇りでもあった。



 しかし、最近それもうすく黒味を帯びてきたのだ。触れることは

はばかられたため、洗うことも磨くこともできなかった。

息をふきかけることさえできなかった。

煙突がはきだす煙にいぶされ、

外見だけでなく内側まで染まりだしたこころを持って、

男は工場と家を往復して生きていく。